それでも君が必要だ

新しい婚約者は私のことを気に入ってくれるだろうか。
怖い人じゃないといいけれど……。

今日は少しでも好感を持ってもらえるように精一杯のお洒落をしてきた。

清楚でナチュラルな服装を意識して、選んだのはアイボリーに黒のリボンラインが入ったワンピース。化粧は薄化粧だけれど、滅多に使わないマスカラも塗った。

変じゃないかな……?
こんな格好、可愛すぎて私には似合わないから、本当はすごく恥ずかしくて落ち着かない。

私は普段お洒落なんてしない。化粧もほとんどしない。
お洒落をするほど自分に自信が持てないし、毎日なんだか忙しくて、日々の生活に追われるうちに自分の服装なんて忘れてしまう。

だから、こんな可愛らしい格好をして化粧をしている自分にどうしても違和感を感じる。

『似合わないくせに、はりきって可愛い格好なんかして恥ずかしい女だ』なんて思われてしまわないだろうか。

そんなことを思ったら、ため息が漏れた。

料亭に着くと、出迎えてくれた着物姿の女将さんは隙のない完璧な笑顔を私たちに向けた。
外面だけはいい父が笑顔で女将さんと話している。

そんな父の貼りついた笑顔に嫌気がさして、気持ちが落ち込んで下を向いた。

父はうつむいた私の表情にすぐ気がつき、大きな声を出す。

「なんだっ!その顔は!笑え」

父の低い声が響いて肩がビクッとする。

「……すみません」

はあっ……。いけない。

新しい婚約者に気に入ってもらわなくてはいけないのに、こんな顔をしたらいけない。

がんばって笑顔を作らないと!

一度目を閉じ、静かに息を吸ってから目を開けた。

大丈夫。
何も考えなければ何も感じない。
大丈夫。

だから、何も考えずに笑顔を作ろう。
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