それでも君が必要だ

苛められても気にしない。考えない。
考えなければ傷つかない。

だから辛くても仕事は辞めない。
逃げたくない。

……意地でも。

私が苛められてもこの会社で働き続けているのは、ただの意地なんだと思う。

私にもできることがあると証明したい。
これは父への唯一の反抗。

はあ……。

伝票、出し直さなきゃ。

ふと見上げると、天井には節電対策で交互に半分消えた蛍光灯が薄汚れた明かりをみすぼらしく放っている。惨めな自分を見ているよう。

いや……、気にしない気にしない。

早く帰って食事の支度をしなければいけないもの。さっさと仕事を終わらせよう……。

食事の支度、と言っても私は料理ができない。私自身、料理することにも食べることにも全然興味がない。
それに、父は私に手作りの料理を求めているわけではないから問題はない。

だから、お惣菜屋さんで色々買ってそれっぽく盛り付けて温めて出せば文句は言われない。

問題は食べる時。

父をじっと観察して、会話の相づちを打ちながら、とにかく同時に食べ終わるように気をつけなければならない。

それだけ気をつけておけば、食事の時間は無事に越えられる。

今日はくだらない嫌がらせも含めて余計に増えた仕事を終わらせたから残業になってしまった。

でも、今まで残業になっても川内さんに睨まれるから残業申請をしたことは一度もない。新たな苛めの火種を作りたくないもの。

帰り道、いつもの通りいくつかお惣菜を買い、真っ暗で寒々しい家の鍵を開ける。
そして台所でお惣菜を皿に盛り付け直したところで、今日が金曜日であることに気がついた。

そうだ!今日は金曜日。忘れてた!

父は金曜日ともなると、必ず付き合いで遅くなる。今日の帰りも遅いだろう。

でも、父の帰りがどんなに遅くても、帰ってくるまで私は夕食もお風呂も待っていなければならない。
< 34 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop