それでも君が必要だ

「とにかくお前は気に入られるよう努力しろ。まあ、お前みたいな不細工は努力したところでタカが知れているがな」

父はふんと鼻で笑うように言った。

「はい」

言葉だけはハッキリと言い、落ち込んだことを気付かれぬよう視線だけを落とした。

父は、口癖のように私を不細工だと言う。

わかっている。
本当のことだもの。

私なんて、本当はどんなに頑張っても気に入ってもらえるはずがない。
それでも気に入ってもらうために少しでも努力しなければ。

「失礼いたします。志嶋様がご到着されました」

仲居さんの声が襖の向こうから聞こえて、ススッと襖が開いたらヒンヤリ冷たい空気がわずかに流れてきた。

一気に高まる緊張に目を開いたまま、息を止めてピタッと固まる。

とうとう来てしまった……。

入ってくる人たちを顔を上げて見るなんてとてもできなくて、息を潜めて襖の手前の畳を様子をうかがった。
ガヤガヤと話す声が近づいて、緊張に喉が締め上げられる。

襖の奥から冷たい空気と一緒に足音を立てて入って来たのは、三人の男の人たちだった。

複数の黒い靴下が畳を踏みしめると、急に部屋の密度が増して空間が慌ただしくなる。
仲居さんたちもせわしなく動き始めた。

「ややっ栗原部長!遅れてしまい申し訳ありません!」

最初に入ってきた中年男性がご機嫌をとるように大げさな笑顔で父に頭を下げた。

「気にすることはない。柴田専務もお忙しいだろう」

「そんなそんな!とんでもないことです」

柴田専務と呼ばれた調子よく喋る中年男性は、ぽっこりとしたお腹が印象的で三つ揃えのスーツに身を包み、かなりきちんとした身なりをしている。

あとの二人は一応スーツを着ているけれど、いたって普通の会社帰りのサラリーマンといった雰囲気。

似ている……。
この二人は親子だろうか?
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