それでも君が必要だ
お父様と思われる痩せた男性は、柴田専務に促されてペコペコと頭を下げながら父の正面に座った。小さくて痩せていてくせ毛。少しよれたシャツにグレーの背広を着ている。
最後に私の正面に青年が静かに座った。
息子さんと思われる青年は、背が高くて痩せていて、やっぱりくせ毛。でも、ダークグレーのスーツと濃紺のネクタイがきちんとした印象。
そして二人とも黒縁眼鏡……。
こんなに小さいお父様からこんなに大きな息子さんができるのかしら?
でも、眼鏡の奥の端正な顔立ちと黒い瞳はとてもよく似ている。
この眼鏡の二人は間違いなく親子。
そして、私の正面に座った息子さんと思われる物静かな青年が今度の婚約者……なのかな?
だとしたら、思いのほか若い。
もっと年上の人かと思っていた。
なんて言うか、とても素敵な人……。
私にはもったいないくらい。
でも、無表情で静か。
何を考えているのかな?
怒っているようにも見えるけれど……。
私たちと対峙するように三人が席に着いたから覚悟を決め、背筋を伸ばして前を見た。
いつまでもうつむいていると、また父に「下を向くな!」って怒鳴られる。
顔を上げて改めて正面に座る青年をそっと盗み見た。
黒縁眼鏡が目立つけれど、本当に綺麗な顔立ちをしている。いわゆるイケメンなのでは?
どうしてこんなに素敵な人が私の婚約者なんだろう。
素敵に見えて、この人も酷い人なのかな?
眼鏡の奥の黒い瞳は、やっぱり無表情で何を考えているのかわからない。
なんとか読み取れないかと一生懸命見ていたら、じっと見すぎたのか青年は私に気がつき黒い瞳をこちらに向けた。