それでも君が必要だ
あっ!
どうしよう……。
目が合ってしまった。
ビクッとしたのに、その黒い瞳に吸い寄せられて視線を外せない。
表情が読み取れない瞳。
吸い込まれて時間の流れを忘れてしまう。
でも、黒い瞳は表情を変えないまま、一瞬私を見ただけでスッと視線を外した。
これっぽっちも興味のない感じで……。
そう、ですよね?
私になんて興味ないですよね?
きっとこんな婚約だって、したくもないんですよね?
こんなに素敵な人なら、きっと恋人だっているだろう。
それなのに、突然私みたいな不細工で地味な女をあてがわれても、不快なだけですよね?
なんか……本当にごめんなさい。
一瞬でも身の程を忘れた自分が虚しくて悲しくて、急激に落ち込んだ。
「本日は」
柴田専務が急に大きな声を出した。ハッとして我に返る。
「このようなお時間をいただいたにもかかわらず、遅れてしまい申し訳ありませんでした。栗原部長にはいつも格別なご配慮を賜り、言葉もございません」
うやうやしくそう言ってニヤッと笑った柴田専務の表情に、妙な気持ちの悪さとわずかな恐怖を感じた。
「お嬢様にはお初にお目にかかりますので、こちらから紹介をさせていただきます。私はシジマ工業の専務をしております柴田と申します。この度のご縁談の仲介をさせていただいております。私の隣がシジマ工業の社長、志嶋哲郎。もう一つ隣が社長のご子息で副社長の志嶋智史です」
一人一人に顔を向け、小さく微笑みながら紹介に合わせて軽く会釈をする。