それでも君が必要だ

「同時に終わらせないといけない?」

智史さんは険しい視線を向けた。
やっぱり言わない方が良かったかな。

「……はい」

「終わらせないと、どうなるの?」

「それは……、えっと」

戸惑ってうつむいた。
同時に食べ終えないと食事を捨てられるとか叩かれるなんて、……言えない。

智史さんは優しくゆっくり言った。

「無理に言わなくてもいいよ。でもね、歩くのもそうだけど、食べるのだって合わせることはないんだよ?自分のスピードで自分の好きなように食べていいんだ」

「……私、食べるの遅いから」

「そんなの全然気にすることじゃないよ。ゆっくりならゆっくりでいいんだ」

「……」

さっきと同じ。
ゆっくりでいい、なんて。

包み込むような優しい言葉。

嬉しいけれど……。

……困惑する。

だって私、自分のスピードなんて、わからない。
好きするって、どういうことかわからない。

もしかしたら、人に合わせることが私の基準だったのかな。人に合わせていればいいって安心していたのかもしれない。

だから急に「好きにしていい」なんて言われても、どうしたらいいのかわからなくなる。
どちらを見ても波しか見えない大海原に放り出されてしまったみたい。

「……緊張したんだろうね」

「え?」

「俺と飯に行く、なんて本当はすごく緊張したんじゃないの?同時に食べ終われなかったらどうしようってさ」

「……」

智史さんって何でもお見通しなのですか?
どうして私の気持ちがわかってしまうんだろう。

「でも、俺は大丈夫だから」

「?」

「俺は君が何をしたって、君を傷つけるようなことは絶対にしないから安心してそばにいて。俺のそばで自由にしていてほしい」

喉の奥が痺れる。

けれど……。

自由と言われても……。
それはそれで怖い。
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