それでも君が必要だ

うつむいた私に智史さんは微笑んだ。

「嫌、かな?」

「……いえ」

「じゃあ、どうしたの?」

「……あの、自由にして、と言われても……」

どうしたらいいのかわからない、なんて、そんなの変ですよね?

「自由がわからない?」

「……はい」

とてもストレートな表現……。
でも、端的に言えばその通りです。そんなこともわからないなんて、ますます落ち込む。

「じゃあ、これからそれを一緒に見つけていこう?美和さんがどうしたいのか、どうしたくないのか。美和さんの好きなこと、嫌いなこと、いろいろさ。焦らないでゆっくりでいいから、ね?」

優しく響く声に、喉の痛みが降りてきて胸の奥が痛んだ。

どうしてそんなこと言うんですか?
どうしてそんな寄り添うようなことを言うの?

智史さんがあんまり優しくするから心が揺れて不安でたまらない。

それに智史さんが『考えて』なんて言うものだから、私は頭のどこかでは勝手にどんどん考え始めてしまっている。
その結論も、本当は見え始めている。

「そろそろ、行こうか」

「はい」

智史さんに優しく誘導されるまま席を立った。

でもレジでお財布を出そうとしたら「コラコラ!」と怒られてしまった。……ダメでしたか?

ランチをごちそうになってしまうなんて……。いいのかな?

お店の外に出てから、頭を下げた。

「すみません、ありがとうございました。ごちそうさまでした」

「何言ってるの?いいんだよ、俺が誘ったんだから」

「でも……」

「俺が君と一緒にいたくて誘ったんだからいいの!」

「……」

また勘違いするようなことを言う……。
困惑する私を気にする様子もなく、智史さんは楽しそうに言った。

「けっこう量多かったねー。でもうまかった!美和さん、おいしかった?」

「……?」

え……。

……おいしかった?

………………?

なんだろう?
おいしい?

私、食べ物の味のことなんて考えたことなかった。
まして『おいしい』かどうかなんて、……今まで全く概念がなかった。

まばたきをして、しばし考える。
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