それでも君が必要だ

甘い、辛い、酸っぱい、苦い。

そういう味があることはわかっていたけれど、自分が食べたものとは繋がっていなかった。

今まで私、何を食べてきたんだろう……。

「いまいち、だったかな?」

智史さんが寂しそうな顔をしたから、思わず即答してしまった。

「いえ、おいしかったです」

嘘ではない、けれど本当はわからない。後ろめたい気持ちのままそう答えた。

どうして私、味のことを考えなかったんだろう。
ショックでぼーっとしてしまう。

智史さんはふわふわして頭が働かない私の手を握ると楽しそうに言った。

「そうそう、またオジサンゲーム始めるからね」

「……オジサンゲーム?」

「君が敬語を使う度に、俺が自分をオジサンと罵り自虐する体を張ったゲーム」

「……」

なんか、すごいゲームになっている。そんなことを言われたら下手に喋れない……。

「ルールはわかってる?」

「……はい」

「そこは『うん』でいいの!」

「……うん」

「そうそう!」

いいのかな。本当にいいのかな?私、なんだか流されているんじゃないのかな?

困ってだんまりになってしまった私を智史さんは覗き込んだ。

「別に普通に喋ればいいんじゃないの?どうして敬語じゃないとイヤなの?」

「失礼なので……」

「それだけじゃないでしょう?」

優しい声に思わず本心が出た。

「……怒らないか、怖いから」

智史さんは目を丸くした。

「怒らないよ!君に近づきたくてお願いしてるのに、怒るわけがないでしょ?」

「……」

本当なのかな?

……ううん、違う。
これも社交辞令ですよね?
私、また勘違いを……。

「それとも、怒った方が効果的?」

「!」

そのつぶやきにヒヤリと背筋が凍った。

どうしよう……。
智史さん、怒ってしまう?

そう、ですよね。
私が言うことを聞かないから……。
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