それでも君が必要だ

でも本当にその通りだから、急いで繋いだ手をほどこうと引いた。



あれっ?
……離してくれない。

手は強い力で握られたままビクともしない。

どうして離してくれないの!?
手を繋いでいたらおかしいでしょう?

私が困って見上げると、智史さんはニヤッと笑った。

「彼女じゃなくて婚約者。俺、この人と結婚するんだ」

「!」

智史さんが大きな声でそう言ったから、驚いて目を見張る。

どうしてそんなこと言っちゃうのっ!
そんなことを言ったらダメなのに!

だって……。
私たちが結婚することはないもの。
そんなことを言ってしまって、後で困るのは智史さんなんだから!

繋いだ手を必死に離そうとする私を見ておばさんは心配そうな顔をした。

「そんなこと言って、お嬢さんびっくりしちゃってるじゃないの」

「そんなことないよねえ?」

私にさらっと同意を求める智史さん。
そんなの、困る。

「……」

黙ってしまったら智史さんは私の耳元に顔を近づけて囁いた。

「このままだと、オジサンが若い女の子を無理やり家に連れて帰ろうとしてる犯罪的構図になっちゃうんだけど」

またそういうことを言う。
そんなこと言われたら……うなずくしかない。

顔を離して悪い笑顔で微笑むと、智史さんはもう一度同じ質問を繰り返した。

「そんなことないよね?」

「……うん」

「それより、ここのお団子超うまいんだよ。特にみたらし団子ね」

さっきまでのやり取りはまるでなかったかの如く、智史さんは普通に話をしながら私の手を引いて和菓子屋さんへ近づいた。

「あらあら、可愛らしいお嬢さんだこと。ホントに結婚するのかい?」

「そうだよ!美和さんって言うんだ」

「……はじめまして。こんにちは」

紹介までしてもらって変な態度はできない。もうここは合わせるしかない。

抵抗するのは諦めて、私が頭をぺこりと下げると、おばさんははち切れんばかりの笑顔になった。
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