それでも君が必要だ
「そうかいそうかい!日取りは決まってるのかい?」
「いや、それはまだなんだけど。ね?」
「うん」
覗き込む智史さんにうなずく。
「お父さんも喜んでるんだろうねえ」
「まあね」
「うんうん、良かったねえ。お嬢さん、サトシちゃんはねえ、本当にいい子なんだよ。大事にしてもらいなねえ」
「……はい」
大事にしてもらいな、なんて……。
こんな会話をしてしまって、ものすごく申し訳ない気持ちになる。
智史さんを騙し続けて、人の良さそうなおばさんまで騙してしまって。
「よしっ!じゃあ、お祝いにみたらし団子あげちゃおうか!これから帰るんだろ?お父さんの分もあげるからね」
「やった!じゃあ、あとね……こしあん団子五本ちょうだい」
「あいよ」
おばちゃんは慣れた手つきで器用にお団子を紙に包むと輪ゴムでパチンと止め、智史さんの手の中の小銭と引き換えに包みを手渡した。
「またおいで。お嬢さんもね」
「はい」
「じゃあねー」
勢いよく手を振るおばさんに手を振り返し、お団子を片手に智史さんは楽しそうに私の手を引いて歩き始めた。
智史さん、お知り合いにあんなことを言うなんて。
本当に私と結婚するつもり、なんですね……。
「あの、さっきの方、お知り合い?」
「うん、もうずっとガキの頃からね」
「……」
はあっとため息をつく。
申し訳なくて気が重い。
「君は俺の婚約者だなんて紹介されるのは嫌なのかな?」
そんな風に思ってしまった?
「……そんなこと、ない」
首を振りながら片言でぎこちなく返す私を気にもせず、智史さんは続けた。
「でも、嫌そうだった」
「あれは……」
あれは嫌がっていたわけではないのに。
この婚約が破棄されることを考えると、後々智史さんにとって迷惑になると思ったから。
でも、私たちの婚約がいずれは破棄されるなんて……、やっぱり言えない。