それでも君が必要だ
つまり二人は親子で、社長さんと副社長さん、ということですね?
……今までと少し違う。
前の婚約者は二人とも社長さんだった。
それもお父様が亡くなられて、会社を継いで間もない社長さん。
でも今回は副社長さんだし、お父様もご存命だから、今までとは状況が違うのかもしれない。
もしかしたら、本当の婚約?
もしかして、私は父から逃れられる?
……いや、そんなわけがない。
父が私を利用しないわけがないもの。
そんなありもしない夢を見てはいけない。
夢なんか見たら裏切られて後で辛くなるだけ。
柴田専務に促され、真ん中に座る小さくて痩せた社長さんは恥ずかしそうに頭をかいた。
「えー……、シジマ工業の社長をしとります。息子には副社長なんてやらせとりますが、まだまだ未熟者です。堪忍してやってください」
人の良さそうな社長さんが頭に手を乗せてハハハッと困ったように笑うと、私の正面に座った副社長さんが真面目な顔で床に手をつき座り直すと姿勢を正した。
「志嶋智史、と申します」
折り目正しく丁寧にそう言って深々と頭を下げたから、驚いて私も勢いよく頭を下げた。
今までこんな風に頭を下げる人はいなかった。
みんな横柄で、偉そうだったもの。
「以前お話しましたな。これが娘の美和です」
父から紹介されてもう一度頭を下げる。
「栗原美和です。よろしくお願いいたします」
私がゆっくり頭を上げると、父はフンッと鼻を鳴らした。
「家で家事だけやっていれば良いものを、働きたいなんて生意気を言いまして、役にも立たないくせに、今はコネでうちの子会社に入れて働かせています。困ったもんですよ」
「……」
そんな役に立たないとかコネだとか、どうしようもない紹介、しないでほしいのに……。