熱砂の心
プロローグ
私の頬を撫でた風はもう留まらない。
それは夏の夜風。
もしも、いつか懐かしみ思い出す日が来るならば。

私の頬を流れるは一滴の涙。
それは確かなる感情の唸り。
また同じ様な世界は動き出した。

美しく月並みの世の中よ。
そんな世界に辟易した私は、束の間の、まるで煙の様な世界に叫びかける。
加減のなかで生きるのはもう辛いのだと。
自由という言葉の意味も考え飽きた。
グレーな世界の蓋を開けてやりたいと。
振り返ることは許されないわけではない。
だがそれを選びはしないだろう。

あの人が言い残した言葉が理解できない。
捨てたものじゃないこの世界は、辛いことしか起こらないではないか。
とてつもない重さをどう背負えばいい。
耐えられない熱をどう凌げばいい。
逃げても再び立ちはだかるこのリアルをどう殺せばいい。

私は選ばなくてはいけないのか。
朧気な夢か突き刺さる事実か、私は何故生きようとするのか。
私はわからない。
なにもわからないそうだ。
ただ上から大きな闇が降りてくるにつれて、見えなかった1等星が姿を現した。

いったいこれから何が起こるというのだ。
その先をゆく自信は心もとないが、確かに見てみたいと私は思った。
それでいい、それでもいいと、私は最初に大きく息を吸い込み眼は見開いた。

それがすべての合図だった。
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