美人はツラいよ

それにひきかえ、会社で隣の席に座る千景さんは、正真正銘の天然美人だ。女の私でさえも、見とれるほどに美しい。
本人は、「アラサーだし全然モテない」などと公言しているが、そんなはずはないだろう。
その証拠に、社内でみんなが狙っていた若手イケメンエリートと彼女は今月結婚するのだ。
松田朋紀、萱島さんより五歳年下の26歳、仕事も出来て、見た目も爽やかで格好いい彼が、二年前に萱島さんと堂々と付き合い始めた時、社内の女子はみな悲鳴を上げた。でも、それと同時に「萱島さんなら、仕方ない」と誰もが思ったのだ。
美人なのにまるで自覚もなく、真面目に仕事をする彼女に、社内の男性たちはすでに感覚がマヒして適当な扱いをしていたが、女子から見れば、明らかに萱島千景は高級食材だったのである。

まあ、男には分からないか。
天然と養殖の違いなんて、どうせ見抜けやしない。
そう結論づけ、私は今日も空しくなる気持ちを隠して、にっこりと微笑むのだ。

会社では仕事は程々に頑張る。
これが、出来るだけ長く可愛がってもらう為に必要だと思う。
新人の頃は学生気分が抜けていないところを隣の萱島さんに注意されることもしばしばだったが、二年目の今は、自分の担当の仕事はきちんとこなせるようになっていた。
かといって、あまりガツガツしてはいけない。仕事熱心なのは褒められるべき美徳なはずだが、頑張りすぎるとかわいげがなくなるのだ。
隣の席の、萱島さんのように。
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