『短編』恋する街角
『誰?』
そう言って野口くんは、わたしの逃げ道を塞ぐように、その大きな手を電車のドアについた。
野口くんとの近すぎる距離にわたしは戸惑い、俯いた。
『彩ちゃん、そいつと付き合ってんの?』
野口くんの真剣な声。
わたしは首を振る。
『彩ちゃんの好きな人って、誰なの?』
わたしは俯いたまま、答える。
『…わからない。1度会っただけだから…。』
『1度会っただけって…?』
わたしはひとつ小さく息をついた後で、野口くんに「運命の人」の話をした。
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