『短編』恋する街角
 

吊り革を掴んでいたあの人の手がわたしの背中に回り、わたしを優しくドアの隅に追いやった。


『…どうしたの?』


除き込むその顔を見て、わたしはせつなくなる。


『好きです…!』


思わずそう叫んでいた。


電車の中、周りの人々のどよめきが聞こえた。


わたしは自分の大胆さに急に恥ずかしくなり、顔を真っ赤にして俯いた。



『…』


彼は沈黙したまま、わたしに顔を近づける。


『とりあえず、次の駅で降りる?』


わたしの耳元でそっと囁いて一


彼は、わたしにキスをした。



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