それは危険なラブミッション
◇◇◇
「ここって……」
タクシーが停められ、ルイに促されて降り立つ。
真っ白な建物が陽の落ちかけた空に浮かび上がっていた。
ヌサドゥア地区で人気のあるホテルだ。
白亜の神殿。
そんな代名詞がぴったりのホテルだった。
不意に腰に回されたルイの手。
それに過敏に反応して身体が硬直する。
ルイにそうされるのは初めてだった。
ロビーを抜け、フットライトが等間隔で灯る、壁のない通路を言葉もないまま歩く私たち。
昼間と違った少し冷たい夜風の心地良さを感じながら、ルイとの距離の近さに鼓動は速くなるばかり。
けれど、回された手が嫌だという不快感は全くなかった。
いつもなら軽い口を叩くルイも、どういうわけか無言のまま。
高鳴り続ける心臓の音が伝わってしまうんじゃないかと、気が気じゃなかった。
そして、ルイが部屋らしきドアの前で立ち止まった。
食事の予約だと言っていたはずだけれど、レストランの入口には見えない。
ルイに聞けばいいものを、私の口はどういうわけか重くて開かなかった。