それは危険なラブミッション
◇◇◇
「いらっしゃい」
そう声を掛けられたことで、自分が今どこにいるのか気付いた。
喫茶店 木漏れ日。
そこのカウンター席に腰を掛けると同時に、マスターに声を掛けられたのだった。
通い慣れた道とはいえ、ここまで歩いてきた道のりの記憶がない。
お店を閉めた後、茫然とただ足だけ進めてきたようだ。
目の下にはひどいクマ。
もしかしたら、すれ違った人の中に、私をゾンビか何かだと思った人もいるかもしれない。
「こんばんは」
「随分お疲れモードじゃないか」
「……分かる?」
「そりゃあ分かるさ。莉夏ちゃんとの付き合いが何年だと思ってるんだい。俺の熱い視線なんて気にしたこともないとかいう酷なことは言わないでおくれよ?」
調子のいいことを言うのは、いつものこと。
マスターである前島さんは、確か今年で43歳になる、気の好いお兄さんといったところだ。