それは危険なラブミッション
「はぁ、はぁ……やっと捕まえ……ましたぞ」
息も絶え絶えに小走りでやって来たのは、ルイの運転手兼執事の西さんだった。
捕まえたって……どういうことだろうか。
まるで逃げていたような言い方だ。
「何か急ぎの用件か?」
「なんと悠長な!」
「まぁ落ち着け、西」
私をチラリと見やると、ルイは西さんを宥めにかかった。
「これが落ち着いてなどいられますか。株主総会を放って――ん、むぐっ」
ルイの手で口を塞がれて、西さんがじたばたともがく。
どうしてそんな手荒な真似を。
でも、株主総会を放ってって何だろう。
バリ島は視察だと言っていたはず。
「こんなところでそんな大きな声を出すものじゃない」
「それはそうでございますが……」
ようやく拘束を解かれた西さんは、少しだけ落ち着きを取り戻したようだった。
と、そこで、西さんは私がいることに気付いて、丁寧に頭を下げてよこした。
つられて私も下げる。
ルイと私の間を何度も行き来する西さんの視線は、どうして二人が一緒に? と言っていた。
そして、思い切ってルイに真意を問いただそうとした私の小さな決意は、そこで失速したのだった。