それは危険なラブミッション

……何だろうか。
西さんが小さい声で「どうぞ」と言うものだから、反射的に手を出して受け取った。


「莉夏様にお借りしたままにしてしまったと申しておりました。ハンカチです」


帰りの飛行機の中でルイに貸したことを思い出した。


「そんな……わざわざよかったのに……」

「僭越ながら、中身は私が見立てたものでございます。ルイ様はお時間がなかったので。お借りしたハンカチは、また後程お返しに上がるそうですので。では、確かにお渡ししましたので、失礼いたします」


西さんはそこまでひと思いに言うと、深々と頭を下げて背を向けた。

ゆっくりとした足取りで出入口に向かう西さんを追いかける。
ついぼんやりと見送ってしまったせいで出遅れてしまった。


「あの、西さん! ちょっと待ってください!」


店を出たところで西さんが足を止める。


「何でございましょうか?」


顔だけじゃなく、西さんは身体ごと律儀に振り返った。
丁寧な物腰は、さすが執事だと頷けてしまう。

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