それは危険なラブミッション
◇◇◇
お店を閉めて、ルイのマンションへと向かう。
方向感覚は悪い方じゃない。
ついこの間、家具を運ぶためにルイの車に乗って訪れたときの記憶を頼りに、タクシーに道案内をしたのだった。
インターフォンには応答なし。
株主総会の後で忙しいのか、腕時計が午後10時を指すころになっても、ルイは帰る気配すらない。
携帯に電話をしてみようかと何度かバッグから取り出したけれど、仕事中だとすれば邪魔なだけ。
諦めて何度もバッグへUターンさせた。
マンションのエントランスから出て、行き交う車をぼんやりと見つめる。
この時間にもなると空気も冷え込んで、吐く息が白く煙った。
夕べまでいたバリ島との気温差に、身体がまだ慣れないのかもしれない。
薄着というわけではないけれど、肌寒く感じた。
もしかしたら今夜はここへ帰って来ないのかも。
引き上げた方が賢明かもしれない。
「――ックシュン」
冷えた鼻先からクシャミが一つ飛び出した。
やっぱり出直そう。
身体をさすりながら、歩道を歩き始めたときだった。