それは危険なラブミッション

やましいことをしていたわけではない。
今日は、新しいソファを1脚ほしいと、お客様として店を訪れていたのだ。


「莉夏さんのお勧めはどっち?」

「どちらもです」


それほどたくさんをお店に置けるわけじゃない。
一応は厳選しているから、どっちがどうとは言えないのだ。

岬さんは、意外と優柔不断な面もあるのかもしれない。
お店が開店して1時間経過しても決められずに、眉間に皺まで刻んで悩んでいた。


「莉夏さん、僕のこと、優柔不断だと思ってるでしょ」

「――別にそうだとは」

「図星って顔だな。だけど違うんだよ。決めちゃったら、この店から退散しないとならないだろう? だから悩んでいるフリをして莉夏さんのそばにいようって魂胆」


嘘なのか本当なのか、岬さんが笑い飛ばす。

それにつられて笑ったときだった。
視界の隅に入った黒い影。

それが、見知ったものに見えた気がして、ガラス製のドアの向こうに目を向ける。

< 357 / 368 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop