遥か~新選組桜華伝~
「だから俺は忙しいって言って…
「言うことを聞きなさい。トシ!」
叫んだのを遮ったのは…威勢のいい声だった。
「なっ…!」
土方歳三が勢いよく振り返る。
つられて顔を上げると、扉の前に大柄な男の人が見えた。
短髪ではっきりとした顔立ち…
「近藤さん…!」
沖田さんが呼んだ。
近藤さんってもしかして…。
考えているうちに、男の人はゆっくりと近づいてくる。
そして私たちの元にしゃがむと、土方歳三の腕を取った。
「…ずいぶんひどい怪我ではないか。
その娘さんの言うとおりだ。すぐに手当てしなければ」
「近藤さん…でも!」
「隊内のことなら、他の奴らがなんとかしてくれてる。
それよりおまえに何かあったほう困るんだよ」
真っ直ぐな瞳で言われて、土方歳三はうつむく。
「……わかったよ」
すごい…。
あの鬼の副長が大人しくなった…。
感心しながら状況を見つめていると、近藤と呼ばれた男は、私の方を向いた。