ぎゅってしてもいいですか。
「……ねぇ……トイレ入りたいんだけど。そこどいてくれない?」
突然聞こえたのは、そんな言葉だった。
「あぁっ?!んでここなんだよ。別のとこ行けや」
どうやら、男子トイレの外で言い合いをしているらしい。
「人いっぱいで入れないんだよね。……てかなんでほかの所行けって言われなきゃいけないの?
空いてるんでしょ?それともなに?お前らよりも年齢が下の子供にトイレも譲ってくんないわけ?」
低くて、大人の人っぽくて、でも全然怖くない、耳をくすぐるような甘い声。
けど、いつもよりものすごく低い……。
……この声は────。
「んだよ……騒がしいな」
私を拘束していた手をゆるめ、男子トイレの外へと向かう男。
「……ってぇ!」
だが、誰かと肩がぶつかり、床に尻餅をついた。
「……見つけた」
その誰かは、一言つぶやくと、私の方へ歩いてくる。
────永澤くんだった。