ぎゅってしてもいいですか。
────たん、たん、たん、たん。
突然、人がいない昇降口前の廊下に、上履きの音が響いた。
誰か来たのかな?
……あ、南緒かも。
自分の靴箱の前にしゃがみこんでた私は、急いで立ち上がった。
ひょこっと廊下に顔を出す。
「……ッッッッッッ?!」
けど、3秒の間をあけて首を引っ込めた。
まま、またしても、な、永澤くんだ……。
今日はホント、どれだけの頻度で会うんだろ。
いや、会うに決まってるか。
てか、永澤くんも帰ったりするんだもん、昇降口に来るのは当たり前か。
バカだな、私。
靴箱に背中をくっつけて、ドキドキうるさい心臓に手を重ねる。
どうしよう。
どっかに隠れた方がいいかな?それとも自然にここで立ってる?
あぁ、逃げたい……。けど、顔出しちゃったし。
あれは絶対気づかれた。
うあぁ~……。
どーすんの、詩星!!
ホントに早くしないと永澤くんが来ちゃ「そこで何してんの?」
…………え??????
「うわあああぁぁぁぁッッッ!!!!!!!!!!!!」
「…………盛大なるリアクション、ありがとーございます」
びっくりして目を見開く私に、微妙な顔をする永澤くん。
やばい、もうこれ、恋のドキドキじゃなくてドッキリ企画とかの方のドキドキだよ。
てか、顔近いっ!!
そんなに白いふわふわしたきれいな肌、近づけられると困ります……!
「……で、何やってんの?」
「え、いや、あの、別に、何も……」
変な挙動不審な動きに、明らかに不怪訝な顔をして。
「へーぇ……?」
「うっ……」
こわいよ。なに?
そんな大きい目を細くしてのぞきこまないで……。
「じゃーなんで、さっき廊下で俺見た瞬間、あからさまに逃げたの?」
「へっ……?!」
ば、バレてる……!!!!!!
「しかも、今も顔出しといて引っ込めるし」
えっと、あの、それは、その……。
てかなにこの危機的状況……!!
いくら片思い中の好きな人とはいえ、壁にじりじり追いやられてるってのは危ないんじゃ……?!
だ、だれか、助けて……。
「俺だって避けられんの悲しいけどな……」
ありゃりゃ。しゅんとしちゃった……。
か、かわいい……って、そんなこと思っちゃダメ!!
「う、あ、っと……これにはちゃんとした理由がありまして……」
好きな人悲しませちゃったな。ひどい私。