ぎゅってしてもいいですか。
「詩星ー!帰ろー!」
授業終わりの理科室に、南緒の声が聞こえた。
まだざわざわとうるさいけど、南緒の声はよく通る。
「いいよー!」
返事をして、教科書を急いで片付けた。
「ひゃっほー!休み時間だぁーっ!ねね、早く教室戻ろ!トイレ行きたい」
ハイハイと軽く流し、理科室を駆け足で出ていく南緒を追いかけた。
「おーい、詩星ぉーっ、ちょっとさぁー」
理科室に残っている子に声をかけられる。
どうしたんだろ。
後ろ向きで走りながら、えー?と答えた。
「えっ、ちょっ、えぇっ!?詩星、後ろ後ろっ!」
焦った表情のその子に、わけが分からない私はそのまま後ろ向きで走っていた。
「え、だからどーしたん『ドンッッッ!!!!!!!』
────…………へ?
私、なんで……男の子に抱きつかれてんの?
っ、て、えぇえぇっ?!永澤くんっ?!?!
「……っと、あぶな……っ。だいじょぶ?」
どうやら、後ろのドアにぶつかりそうになったところを守ってくれたらしい。
「は、はぃ……ぁ、ぁりがと……」
おなじところに目線があるというのと、心臓の音がうるさいのとで、
お礼の言葉が小さくなってしまった。
と、いきなり、永澤くんが顔を赤くして私からぱっと離れた。
「ご、ごめん、つい……」
「……ぇえっ?!ぃ、いゃ、全然、そんな……」
そんな様子を見て、周りの男子がはやし立てる。
永澤くんがうるせぇよっと怒鳴ったものの、赤面の顔に説得力は皆無で、
男子はヒートアップするばかりだった。
……あ、あの、逃げてもいいでしょうか……っ。