ぎゅってしてもいいですか。
「……ごめん。意地悪しすぎた……」
ふてくされたような、反省したような、そのふたつが織り交じってる声。
保健室に漂うマスカットの匂いが、一層増した気がした。
「……だって、デートしてるんだもん……俺の知らないとこで。すげー妬いて、
そんな心狭い自分にも嫌になって。彼氏失格だなーって思ってさ。……だから距離置いた。
けど、別れたつもりも、別れるつもりも、一切ないから」
優しい眼差しで私を見下ろす。
その瞳からは、揺るぎない何かを感じて。
「……っ」
「俺も……子供みたいだから、ちょっと意地張ってて。
なんか俺だけ妬いてんの悔しくて……、話しかけたり、目も合わせたりしなかったけど、
頭ん中は月乃でいっぱいだった。めっちゃ接したりしたかったけど、
俺のちっさいプライドが邪魔して。月乃が話しかけてくるまで我慢って思ってて……」
切ない声を出して、伏し目がちになる永澤くん。
胸がきゅぅうっと音を立てる。
「けど……さっきの、月乃のひとりごと聞いて……色々、感じて」
私を抱きしめる腕が、少し強くなった。