ぎゅってしてもいいですか。






……忘れるって言ったのは自分じゃない。



結局はそーやって……。



あーぁ……。







「よく……できるね。好きでもない人にそんなこと……」


「……え?」





……もう。つくづく私が嫌になる。



自分のことを棚に上げて永澤くんを責めるなんて。



これ以上、失望させないでよ……。ホント最低……。


私なんか、大ッ嫌いだ。





「……私ね、好きな人いるんだ」


「……そーなんだ」




目を丸くする永澤くん。きっと、突然のことに驚きを隠せないんだろーな。


ごめん。でも、今の私にはこうすることしかできないから。



永澤くんを好きじゃなくなりたい。

ただそれだけで。



「私だったら、好きでもない人にあんなことしない。裏切ることなんてしない。

付き合ってる人いるくせに……最低だよ」





……最低なのはどっちだか。


こんな風に、けなして嫌われることしかできない。


でも嫌うことができないのなら、こんな方法しかないんだ。




「好きな人ね、すごくカッコいいんだ……。みんなにもモテモテで、クラスの中心にいるような人で」


「…………」



あっけに取られたように座ってる永澤くん。

心の中で、ごめんねごめんね、と必死に謝る。




「大人っぽくて、優しくて……。けど、笑った顔があどけなくて可愛くて……まるで子供みたいなの」


「……そっか」



そんな顔で、まっすぐ見ないで。

心臓の鼓動がはやくなっちゃう────



「あと、最近ちょっとSっ気あるんだなって気づいたの。意地悪されたことあって……。

でも、そんなとこも可愛いなぁなんて思ったりして……」


「……へぇ……」




ウソをついているのか、それともホントの気持ちを言っているのかわからなくて、錯覚におちいった。


……けど、もうそんなこと、どうでもいいや。





「すごく、好きなんだ……。届かないって……分かってても、やっぱり……期待しちゃうんだ」




泣きそうになるのをこらえて、へへっと笑う。




「そんな私だから、好きな人以外にあんなことするなんて考えられない……」


「……ごめん」




永澤くんはそう一言ぽつりとつぶやいた。







「わかればいいんだよっ。へへ、初めて男の子にお説教しちゃった」




茶目っ気たっぷりに、明るくそう言ってみる。




「……けど」



ふっと目を伏せると、次の言葉を続けた。




「彼女さん……大切にしてあげて……」

「……え」


「私の好きな人……付き合ってる人がいて……今頑張って忘れようとしてて……。

……片想いは辛いんだよ。だからこそ、大事にして……。

好きな人との両想いはものすごく幸せなことなんだから」



真面目な顔で話しかける。これは、ホントだよ……。








「……諦める?」



「……へ?」



唐突に出た言葉に、目を丸くした。





「……いや、だから。その人のこと、諦めるのかって」



「……あきら、める……?」






……諦めるなんてそんな言葉自体、考えたことなかった。

忘れよう、好きじゃなくなろうってことだけに必死だったな。



忘れるのと諦めるっていうのは、私の中で違う気がしていたから。




< 65 / 421 >

この作品をシェア

pagetop