焦れ甘な恋が始まりました
「っていうか、杏、荷物多くない?何その、デカイ保冷バック」
思わず自分の母に感心していれば、私の手に持たれた保冷バックを見た陽が、突然訝しげな声を出して眉根を寄せた。
視線を辿れば、そこには当たり前に蘭へ渡す予定の料理が入った保冷バックがあって。
まぁ確かに、この保冷バックは目立つよね……
普段使ってる可愛らしい保冷バックは、前に下條社長に持っていかれてから、まだ私の元には帰ってきていない。
だから今、私の手に持たれている保冷バックは男の人っぽい印象を受ける見た目のもので。
野球部のマネージャーとかが、監督用の飲み物を入れるのにベンチにそっと置いておくような。
流石に鮮やかなブルーが印象的なプラスチック製のあの大きな保冷ボックスには敵わないけど、しがないOLが持つには可愛さの欠片も感じられない代物だ。