焦れ甘な恋が始まりました
先程の陽と同様に、饒舌になった社長は何故か先日の――――金曜の夜の、私の話をし始めた。
自分の弟にされるには、あまりにも情けない、私の話だ。
それに、自分の弟に姉が支えられるって……それこそ、情けない話だと思ってしまう。
でも。
お願いだからやめてほしいと心の底から思うのに、私には今の社長をどうにも止められそうもなくて。
「一緒に過ごしたらしい休日でも、そんな彼女の心の内にキミは気付いてあげられたのか?その、手に持っているものも。それがどれだけ彼女の愛情の篭ったものか、どうせ気付いてもいないんだろう」
「あ、あのっ!社長……っ」
「気付いてたら、その気持ちや愛情を無下にするわけがないし……つまり。そういうのを全て引っくるめた上で、俺はキミのことを若いって言ったんだ」
「っ、」
「男なら、大切な女(ヒト)の痛みくらい、全部受け止めてやれ」
そこまで言い切ると、陽へと鋭い視線を送っていた下條さんは、隣に立つ私に視線を移した。
だけど、私を見るその目は。
陽を見るそれとはまるで違って、どこか苦しそうな……行き場のない切なさに揺れていて。
その目に見つめられた瞬間、私は思わず時を忘れた時計のようにただ、固まるしかなかった。