焦れ甘な恋が始まりました
 


……なんで?

どうして社長は、そんな表情で―――そんな目で、私を見るの?


今社長は、一体何を考えているの?



「……俺だったら、全部、受け止める」

「え、」

「悩みも苦しみも、涙も……全部まとめて、抱き締める覚悟はあるよ」

「っ、」


「俺の方が……幸せにする自信も、ある」



そこまで言い切ると。

ゆっくりと息を吐いた社長は、静かに私に背を向けた。


そのまま、再び裏口の扉へと手を掛け、中に消えていく社長の後ろ姿を眺めながら、先程から煩く主張する心臓に手をあてる。


ドクドクと不協和音を奏でるそこは、何を私に伝えたいのか。


見えなくなってしまった背中の残像と、社長の表情を思い出しながら、私はしばらくその場所から動けなかった。


 
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