焦れ甘な恋が始まりました
―――下條社長と弟の陽が偶然出くわした日から、早二週間が経とうとしていた。
「杏の会社の社長に……色んな意味で同情した」
社長と一戦交えた後、呆然とする私に、脱力したようにそんなことを言った陽は、それ以上社長について言及することはなかったけれど。
陽が口にした言葉の意味を拾いきれずに、曖昧な笑顔を零した私に小さく溜め息を吐いた陽。
「……まぁでも、もし必要だったら俺から説明してもいいし、いつでも呼んで」
駅での別れ際。
そう言葉を残していった陽は、少なくとも、社長に対して向き合っていた時のような、嫌悪感を抱いている様子は見受けられなかった。
それに心のどこかで安堵しつつも、陽と別れたあと妹の蘭の家に料理を届けてから……私はしばらく重い頭を抱えたままで。
……社長が言っていた言葉の意味。
そして、去り際に社長が見せた表情。
考えれば考えるほど、出口のない深い森の奥へと迷い込む気分になって、溜め息だけが増えるばかりだった。