焦れ甘な恋が始まりました
 


なんていうか……社長という立場を前提に置いた上で、よく言えば仕事人間、悪く言えばズボラ人間。


レジに並ぶ直前、思い出したように「包丁と……お玉とフライ返しと、菜箸はありますよね?」と聞けば、全部無いと言われて目眩で倒れそうになった。


慌ててスーパーの隅にコーナーの置かれた調理器具売り場へ走れば、「スーパーに調理器具なんて売ってるんだね。しかも、こんなにたくさん」なんて。


感心したように言う社長に、ついに料理に関しての常識を求めることを諦めた私。


……なんていうか、こういうところを見ると、やっぱり社長である前に御曹司でもあるんだなぁと思ってしまう。


そもそも下條社長は、あの会社を作り上げた会長の、ご子息なわけで。


普段会社では、本当に本当に、そういう面は一切見せないから、今更新鮮ではあったけど。


それなのに外食を除けば、ご飯はコンビニやレトルトを食べたりと、変に一般的な面も持ち合わせていたり。


食生活の部分だけを切り取ると、社長はとてもアンバランスな人に思えて仕方がなかった。


 
< 171 / 380 >

この作品をシェア

pagetop