焦れ甘な恋が始まりました
なんていうか……社長という立場を前提に置いた上で、よく言えば仕事人間、悪く言えばズボラ人間。
レジに並ぶ直前、思い出したように「包丁と……お玉とフライ返しと、菜箸はありますよね?」と聞けば、全部無いと言われて目眩で倒れそうになった。
慌ててスーパーの隅にコーナーの置かれた調理器具売り場へ走れば、「スーパーに調理器具なんて売ってるんだね。しかも、こんなにたくさん」なんて。
感心したように言う社長に、ついに料理に関しての常識を求めることを諦めた私。
……なんていうか、こういうところを見ると、やっぱり社長である前に御曹司でもあるんだなぁと思ってしまう。
そもそも下條社長は、あの会社を作り上げた会長の、ご子息なわけで。
普段会社では、本当に本当に、そういう面は一切見せないから、今更新鮮ではあったけど。
それなのに外食を除けば、ご飯はコンビニやレトルトを食べたりと、変に一般的な面も持ち合わせていたり。
食生活の部分だけを切り取ると、社長はとてもアンバランスな人に思えて仕方がなかった。