焦れ甘な恋が始まりました
「着いたよ」
……欲を言えばコチュジャンに豆板醤(とうばんじゃん)、ウスターソースあたりも欲しかったな。
ぼんやりと、そんなことを考えながら。
頭の痛くなるような高層マンションに連れて行かれてエレベーターに乗り込み、みるみる上層階に上がっていく箱の中で外の景色を眺めていれば、軽快な音と共に止まったエレベーター。
もう何にも驚くまいと覚悟を決めて、両手いっぱいに荷物を持った社長の後ろを着いて行くと、ある一室の前で足が止まった。
「悪いんだけど、開けてくれる?」
逃亡防止のためか予め鍵を持つように言われていたので促されるままそっと扉を開ければ、上品な開閉の音と共にキーが廻って。
両手の塞がっている社長の変わりに扉を開けば、社長室で抱き締められた時に感じたシトラスの香りが、私の鼻孔をくすぐった。