焦れ甘な恋が始まりました
 


溢れそうになる涙を、精一杯飲み込んで社長を見上げた。



「……んっ、」



そうすれば、それを合図に塞がれた唇。

そのままキッチンの壁に身体を押し付けられ、急かすように強引に深いキスへと誘われた。



「……杏、」

「っ、」



キスが途切れた瞬間。耳元で甘く囁かれた名前に、身体の芯から痺れて何も考えられなくなってしまう。


……だけど今は、その方が都合がいい。

だってもう、余計なことは何も考えたくないから。



「……っ、」

「……あんまり、可愛い顔で煽らないでくれる?」



言いながら、困ったように笑った社長は、ゆっくりと私の背中に指を這わせた。


その焦らすような誘惑に、思わず身をよじって社長から顔を背ける。



「ダメだよ、逃がすわけないだろ?っていうか、逃げられるとでも思ってる?」

「っ!」



と、その瞬間。

露わになった首筋に顔を埋めた社長は、つい先程まで私の唇を翻弄していた舌で、更に私を追い詰めようと攻め立てた。


 
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