焦れ甘な恋が始まりました
「っ、」
渡された言葉を受け止める間もなく。
自分の本当の気持ちに気付いてしまった瞬間、言いようのない虚無感に胸が覆われた。
そうだよ、もし……もし今ここで、下條社長と身体を重ねて熱を共有したのなら。
例え一時でも下條社長の身体は手に入るかもしれないけれど、それは本当にただの一時に過ぎなくて。
私が欲しいのは……そうじゃない。
私が本当に欲しいと思っているのは一時の快感でもなく、過ちに濡れた夜でもなくて、本当は――――
「っ!」
と。
そこまで考えたところで突然、部屋に響いた携帯電話の振動音。
それに大きく身体を揺らした私は、思わず足元に転がっていた自分のバッグに視線を落とした。