焦れ甘な恋が始まりました
“ 送ってく ”
思いもよらない言葉に顔を上げれば、私を見て切なげに微笑む社長と目が合った。
「杏の中に別の奴がいる以上……答えはわかってたんだ。でも……杏の言葉を聞いて、心のどこかで甘えが出た」
「え……?」
「そんな顔をさせたいわけじゃなかったし、俺は……杏を泣かせたくないし、苦しませたくない」
「……っ、」
「だから、杏の気持ちも考えずに強引に迫った俺が悪い。杏は、自分を責めずに、全部俺のせいにしてて」
「下條、さん……?」
「それくらい、カッコつけさせてもらった方が俺としても救われる」
言いながら、悪戯っぽい笑みを零した社長を前に自分勝手に痛む胸。
同意の上だと思っていた相手に突然拒絶され、男としてのプライドを傷付けられたに違いないのに。
それなのに社長は、全てを無かったことにしてくれると言っているんだ。
その上、全部、自分のせいだから……と。
「杏の気持ちも考えずに、本当に軽率だった。……ホントに、ごめん」
そんなの、ここまで着いてきた私に責任があるはずなのに。