焦れ甘な恋が始まりました
 


言葉と同時、突然、腕を引かれて。

私の身体は座ったままの下條さんに力強く抱き寄せられていた。


求めていた体温と、伝わる鼓動に再び目に涙が滲む。


抱き締められること、たったそれだけで、私の身体には下條さんの想いが流れ込んできて。


ああ、そうだ。

下條さんだって、社長である前に……一人の男の人だった。


雲の上の人、手の届かない人なんて……そんなの、周りが勝手に決めたこと。


臆病な私が作った、言い訳だ。



「……俺は、これからは堂々と、杏のことを愛していいの?」


「っ、」



……私は一体、何を見ていたんだろう。

何を、見てきたの?

下條さんの言葉も、行動も。

今日まで、私は、一体何を。



「俺は、ずっと……営業部にいた頃から、杏のことが――――」


「……下條、さんっ」


「うん?」


「私……下條さんのことが、好きです……っ」


 
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