焦れ甘な恋が始まりました
「……それで?一応、その企画部長に伝えるためにも理由を聞かせてくれる?」
はぁ、と。再び溜め息を吐いた社長は、ゆっくりとデスクから立ち上がると私のそばまで歩を進めた。
今日もやっぱりスーツの良く似合う、どこから見てもイイ男な社長に、自然と身体は距離を置く。
だけど、そんな私を逃さないとばかりに素早く腰に手を回した社長は、スッカリご機嫌な様子で私をソファーへと誘導した。
……この距離感に、更なる警戒心を募らせるけど。
「私、クライアントレシピを、もっと増やしていきたいんです」
「クライアントレシピを?」
「はい。VENUSの成功で、これからもっとクライアントさんや関係各社との関係は密接になっていくと思います。もちろん、新しい取引先も増えていくはずです。そうなった時に、私はその詳細をまとめるクライアントレシピを、これからも増やして会社に役立てたいと思いました」
誰にでもできる仕事をしている、代わりのきく自分。
だけど、いつまでも、代わりのきく存在でいるのは嫌だから。だったら、自分の会社での存在価値を、自分自身で作っていきたいと思ったの。