音の流れつく場所。
嫌な気はしない。
こっちが愛想のない返事をしてしまっても、返ってくるのは無邪気な笑顔と別の質問。
「そんなに仕事で大変な思いしてんねやぁー。」
自己紹介なんて簡単なものだった。
お互いの下の名前を教え合っただけ。
彼は名前を“ソウ”と名乗った。
知っているのはそれだけ。
それだけだけど、不思議と盛り上がった会話。
そして、その笑顔ひとつでイライラさえも吹き飛ばしてしまいそうな空気が心地よかった。
「こんなしゃべったん久々やわぁー。
なぁ、良かったらもう一軒一緒にどぉ?」
上機嫌で笑いながらソウ君は私に提案する。
私もこれだけ話したのは久々かもしれない。
それも、初対面の人間相手に。
「ソウ君がいいなら。私は明日お休みだし。
そう言えば、ソウ君って仕事は?まだ飲んでて大丈夫なの?」
「あー、大丈夫、大丈夫♪俺、バンドやってんねん。
明日は昼までゆっくりやからなんも問題ないねん♪」
にこーって笑う顔は可愛くて、バンドをやってるイメージはなかった。
そして、ずいっと彼が私に近づいて顔を覗き込むような体勢になる。