黒いジャージ ~先生と私~

「棚橋!聞いてるのか?」

化学のおじいちゃん先生の怒鳴り声で、ハッとして、視線を教室に戻すとクラスのみんなが私を見ていた。

「はい、聞いてません」と私が答えると、教室が笑いに包まれる。

私とこのおじいちゃん先生は、犬猿の仲というか、いつもこんな感じでクラスのみんなはそれを楽しんでいる。

難しくて楽しくない化学の授業で、唯一の息抜きになっているのならいくらでも遊んであげようって思う。

「聞いてないってどういうことだ」

「夢の世界に行ってたんで、すいません。あ、死後の世界じゃないですよ!」

教室の中の笑い声に快感を覚えながらも、こんなことを言っている自分が好きではない。

私は、おじいちゃんっ子だったし、年寄りを大事にしなさいって言われて育った。



< 5 / 51 >

この作品をシェア

pagetop