【短編集】とびっきり、甘いのを。
「…ねえ、聞いてんの?」
「聞いてない。部活行くよ」
「答えてくれなきゃ行きたくない」
拗ねたような顔をする三浦に、ため息をつく。
だけれど三浦はとにかくサッカーがうまい。
部活をやめられたりしたら困る。
でもワガママはなんとかしてほしい。
部長というのは、3年生の先輩である佐藤先輩だ。
そして三浦の言うことは、当たっている。
当たっているから困るのだ。
「…なあ、部長のどこが好きなの?」
のろのろと部活に行くために荷物をまとめながら、三浦がつまらなそうに質問する。
つまらないなら聞かないでほしい。
「…好きだなんて言ってないでしょ」
「先輩が否定しないなんて、それもう肯定と同じじゃん」
ああそうだ、その通りだ。
もう嘘はつけないし、この調子だと私が答えるまで彼は延々とこの話題を続けるだろう。
部員の前でまでこんな話をされたらたまらない。