【短編集】とびっきり、甘いのを。
小さく溜息をつくと、尚、と呼ばれた名前。
「ん、梨乃」
「元気なくない?」
「ばれた?」
梨乃の艶のある茶色い髪が目に入って、ふと手を伸ばしてみる。
くしゃりと撫でた髪は、いつも触る陽奈の髪よりもサラサラで、俺の指はすぐに梨乃のそれを通り抜ける。
…陽奈に会うまでは、こんなことくらい普通にしてたのに。
女に触るのなんて、特に意味はなかったのに。
これじゃない、って思ってしまう。
陽奈じゃなきゃ、意味がない。