【短編集】とびっきり、甘いのを。




小さく溜息をつくと、尚、と呼ばれた名前。



「ん、梨乃」



「元気なくない?」



「ばれた?」



梨乃の艶のある茶色い髪が目に入って、ふと手を伸ばしてみる。

くしゃりと撫でた髪は、いつも触る陽奈の髪よりもサラサラで、俺の指はすぐに梨乃のそれを通り抜ける。



…陽奈に会うまでは、こんなことくらい普通にしてたのに。

女に触るのなんて、特に意味はなかったのに。




これじゃない、って思ってしまう。


陽奈じゃなきゃ、意味がない。









< 42 / 141 >

この作品をシェア

pagetop