【短編集】とびっきり、甘いのを。
「えー、なに、どうしたの?」
「何でもない」
梨乃の髪から手を離す。
俺はやっぱり、びっくりして、真っ赤な顔で振り向いて。
涙目でこっちを見る陽奈が見たくて。
「く、黒澤くん…っ」
10時も近くなった頃、じゃあそろそろ解散するかー、なんて言ってる中。
いつもより大きな声。
驚いて振り向けば、緊張がこっちまで伝わってくるような必死な顔の陽奈。
「あの、い…」
きゅっと小さく握った拳が、少し震えてるのがわかる。
「一緒に…帰りませんか……?」
予想外すぎる言葉に、え?と思わず聞き返した。
「黒澤くんの、家の方向でいいから!
黒澤くんの家まで送るから……一緒に帰ってくれませんか…っ」
……なに、それ。
期待するよ?
「俺が送る」
「へ……」
「陽奈の家まで送ってやるっつってんの」
「そ、それは悪いよ!」
「こんな暗い中お前1人で帰らせる方が悪いわ」
「だ、だって……」
渋る陽奈を無視して、歩き出す。
慌てて俺の後ろをついてくる小さな足音に、無意識に頬が緩んでいる俺がいた。