【短編集】とびっきり、甘いのを。
……つーか、俺のこと嫌いなんじゃねえの?
なんでそこまでして、一緒に帰りたいわけ?
どうしたって俺はその理由を探してしまって。
そして都合のいい方向に結びつけようとしてしまって。
変に期待なんかしたら、後で苦しいことはわかってるのに。
「…家、こっちの方なんだな」
半歩後ろをついてくるこの距離感が、陽奈らしいと思った。
「う、うん…
ごめんね、黒澤くんの家、こっちの方面じゃないのに…」
「…や、別にそういうつもりで言ったわけじゃなくて」
真っ暗な道を、街灯が優しく照らす。
夏の夜独特のこの空気に、いつもと違う雰囲気に。
柄にもなく、緊張した。
「黒澤、くんって」
「んー?」
「…女の子にちょっかい出すのが、好きなの…?」
「……は?」
思わず足を止めて振り返る。
それじゃあ俺がただの女好きみたいじゃん。