好きの代わりにサヨナラを《完》
「ほのか、大好きだよ」

そう言って瑠菜は、棒立ちになっていたあたしに勢いよく抱きついてきた。

驚いたあたしは彼女をギュッと抱きしめ返すこともなく、されるがままで突っ立っていた。

あたしに手紙を渡すと、瑠菜はお客さんに笑顔で手を振り小走りで去っていった。



会場には、どこかしらけた空気が流れている。

他のメンバーの生誕祭はファンも一体になって温かくお祝いしている感じだったけど、今日はみんな冷たい視線をあたしに向けていた。



あたしは瑠菜の名演技に、感激して涙を流すフリも満面の笑顔を作って喜んでいるフリもできなかった。

この手紙を読んだのが美憂だったら、自然と涙が流れたのかもしれない。

ステージで瑠菜と仲のいいフリができなかったあたしは、プロ失格だと思った。

気まずい空気の中、あたしは素の硬い表情のまま深く客席に一礼した。
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