好きの代わりにサヨナラを《完》
「失礼します……」

音源の機械を操作していた恭平が顔を上げる。

あたしは後ろ手でドアを閉めた。



「あぁ、センターの子?」

「はい……snow mistの弓槻(ユヅキ)ほのかです」

「何しにきたの?」

恭平の声は、どこか冷たい。

テレビで見た爽やかな印象とは違って、低く抑揚のない声だった。



「……そういうのやめてもらえませんか?」

「そういうのって……何を?」

絶対、わかってる癖に……

腹が立つけど、あたしはやっぱりこの男が怖かった。

あたしはドアの前に立ったまま、小さな声で言った。



「あたしたち、デビューしたばかりで大事な時期なんです……」

「だから、何?」
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