好きの代わりにサヨナラを《完》
「ほのか、東京に戻らないの?」

莉緒の質問に、あたしは箸を止めた。

荷物はまだ寮の部屋に置いたままだし、事務所の人に一言も相談せずに帰ってきてしまった。

このままずっと実家に隠れている訳にもいかない。



「たぶん……戻るよ」

そう答えたけど、あたしはそんなに戻りたくなかった。



「よかった。ほのかがいないと学校つまんないんだよね」

莉緒がそう思っていてくれて、あたしは嬉しかった。

あたしは笑顔で、お寿司をほおばる。



「あたしも、学校は行きたいよ」

「ほのか早く戻ってきてよ。
ほのかいないと、夏休みの補習恭平と二人っきりになっちゃうし」

仕事で欠席が多かったあたしたち三人は、夏休みも学校で補習を受けることになっていた。

莉緒は、恭平と二人きりになるのが嫌なんだろか。

恭平が音楽室で落としたネックレスのことを思い出す。

あたしは、莉緒の胸元に視線を向けた。
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