好きの代わりにサヨナラを《完》
「莉緒は、もう緊張しないの?」

ステージに立つ莉緒はいつも堂々としていて、全然緊張していないように見えた。

あたしは鞄を両手で抱えて、鏡に向かって立つ莉緒の隣に並ぶ。



「そんなことないって……めっちゃ緊張するよ」

それでも莉緒は、ステージに上がる前周りの会話が耳に入らなくなるくらい緊張しているあたしよりもずっと落ち着いている。

鏡を見つめる彼女は、たまに真剣な目をしていた。



「莉緒はステージで歌ってる時、何考えてるの?」

「うーん、なんだろな……あんま考えてないけど……」

莉緒は長い髪をかきあげて、きつくアイラインが引かれている目を伏せた。
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