好きの代わりにサヨナラを《完》
莉緒は少しかすれた声で、ささやくように歌い出す。

こんなに優しい彼女の歌声を、あたしは初めて聞いた気がした。

サビに入ると、それまで抑えられていた舞台装置の照明が一斉に光りだす。

キラキラ輝くステージの真ん中で、莉緒は大きく手を伸ばした。



ー例え会えなくなっても この愛が本物なら 二人は永遠に結ばれているー

切ないメロディーにのせられた莉緒の歌声が、あたしの胸に響く。



莉緒は、ステージで一筋の涙を流した。

強い莉緒が泣いたのを、あたしは初めて見た。



彼女の悲しみを抑えたような歌声に、あたしも胸が苦しくなった。

自分では泣くつもりはないのに、自然に涙がこぼれてくる。

あたしは片手で唇を押さえたまま、涙に霞む目をずっとステージへ向けていた。
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