好きの代わりにサヨナラを《完》
最初に入ってきたのは、あたしと同じくらいの年頃の男子。
ジーンズにグレーのリュックをしょっただけのラフな格好。
短い黒髪に手をやりながら、気だるそうに歩いてくる姿にあたしは思わず口を開いた。



「蒼(アオイ)……」

あたしの隣に立っていた美憂(ミユ)が、あたしと通りすがりのファンであるはずの彼を見比べる。

美憂は、あたしと同じ中学3年生の15歳。
さらさらストレートヘアで、くりっとした大きな瞳。
ちょっとした仕草も女の子らしくて、すごく可愛い。
まさにアイドルになるために生まれてきたような子だ。

いつも笑顔で人懐っこい彼女は、オーディションの時一人でポツンと立っていたあたしに話しかけてくれた。



「何……?ほのかの知り合い?」

美憂の声は、あたしの耳に届かなかった。
あたしは握手レーンに近づいてくる彼から視線を外せない。

彼はあたしの前まで来ると、無言で立ち止まった。



「大丈夫、ほのか……?」

美憂の声にハッと我に返る。



「うん、大丈夫」

あたしは蒼に視線を向けたまま、そうつぶやいた。

どうしたらいいかわからず固まっているあたしに、蒼は自分から右手を差し出した。
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